2023.3.8

【ヴィクトワール広島】最強戦士列伝②:久保田悠介

久保田悠介選手

チーム史上最強の布陣と言われる2023年シーズンのヴィクトワール広島。昨季からの継続選手4名の中で、2022年シーズン特に大きく飛躍したのが久保田悠介だ。

競技歴わずか2年半でのプロデビューだったが、2022年は新人ながらUCI国際レースを含むほぼ全レースに出場し、広島クリテリウムで7位、秋吉台カルストロードレースでは敢闘賞に輝くなど存在感を示した。

熱い気持ちで駆け抜けたキャンパスライフ

久保田がロードバイクに乗り始めたのは、関西大学の入学祝いに買ってもらったことがきっかけだった。中学時代の先生や、高校時代の友人が乗っていたのを見て「カッコいい」と思っていた憧れの自転車をついに手に入れ、大学ではサイクルツーリングクラブというサークルに入った。

しかし、ツーリングには一度も参加しないまま1年が過ぎた。
「このままだと何もしないまま大学生活が終わってしまう」
焦りを感じた久保田は、いきなりそこで「自転車部に入ってみようかな」と考えたというから極端ではある。

「自転車部について調べたら『お問い合わせメールアドレス』があったのでメールを送りました。そうしたら10分後くらいにすぐ返事が来て(笑)。見学に行って、ポンポンポンと入部することになりました」

たしかに、今もWebサイト右上には「お問い合わせ」のタブが…。

幼稚園生の頃からサッカー、中学校ではソフトテニス、高校ではバレーボールをしていたスポーツ少年で、陸上競技の長距離走も得意だった。ロードバイクで通学を始めてからは、愛車で山に行ったりもしていたと言う。そんな久保田だから、途中入部でも練習には難なくついていくことができた。

「入部した時、4回生に谷(順成、元・ヴィクトワール広島/現・宇都宮ブリッツェン)さんがいて、半年くらい一緒に乗ってました。谷さんは卒業後プロになっていたので、(自分も)プロになるか就職するか、めちゃくちゃ悩みました。プロに行きたい気持ちもありましたが、周り(の友達)はいいところに就職しているし、親も普通に就職することが当たり前と思っているし、ケガも怖いし…。自転車は自分のペースで好きな時に乗ればいいと思って、就職することにしました」

▶︎関西大学自転車部【レース班】の活動内容ページには、今も学生時代の谷&久保田選手の姿が…。要チェック!http://kucrt.net/activity/

充実のルーキーイヤー

広島クリテリウムのゴール後、沿道からの大きな拍手に応える久保田選手

食品関係の会社で、営業職として2年半働いた。

わずか2年半で会社員生活にピリオドを打ったのは、自転車部に入部を決めたときと同じ、自らの現状に対する焦燥感だった。

「きっかけはいろいろありますが、一番は、このまま人生終わったらヤバいな、と思ったことです。昼休憩中にツアーオブジャパンの富士山ステージを見ていたら、谷さんがいいところで登っていたり、大学時代に一緒にインドネシア遠征に行った井上文成くん(シマノレーシング)が活躍していたりして。もともと就職の時も悩んでいたのもあって、このままあと40年働いて死んでいくのかと思ったら、それは嫌だなと。そう思って、すぐ会社に辞めると伝えました。自転車のプロになるからと言ったら反対されましたけど、押し切りました」

退職に向けた動きと同時進行で、中山卓士監督にもコンタクトを取っていた。

「自転車部の後輩の西田(優大/元・ヴィクトワール広島、現・日本競輪選手養成所123回生)に監督の連絡先を教えてもらって、電話しました。(ヴィクトワール広島を選んだのは)やっぱり谷さんと西田がいたからです。話もよく聞いていましたし…。

広島は、めちゃくちゃいいです。都会すぎず、かといっていろいろあるし、すべてがちょうどいい。バスは慣れないですけど(笑)」

かくして、回り道を経てプロの門をくぐった久保田。25歳での少し遅めのデビューにはなったが、ルーキーイヤーは学びも結果も、収穫たっぷりなシーズンだった。

「学生時代、関大はチーム単位で動くというより個人で戦う感じだったので、(デビュー後)最初はぜんぜん走れませんでした。シーズン後半は徐々にチームとして動けるようになってきて、チームとして勝ちを狙うという、今までやってこなかったことを理解できるようになってきた気がします」

チームが最も大切にするホームレース・広島クリテリウムでは、レース中盤に8名が先行して「逃げ」集団を形成。久保田はその一角で奮闘し、ラスト2周で集団から遅れてしまったものの7位でゴールして地元ファンを大いに沸かせた。また、シーズン終了間際の秋吉台カルストロードレースでは、キャプテン・阿曽圭佑選手の「今行け!」という声に反応して飛び出し、先頭に立ったあと一時は後続に1分以上もの差をつける走りを見せた。最終順位は18位だったものの、積極的な走りを評価されて敢闘賞に選ばれた。

秋吉台では敢闘賞を獲得。「普段あまり表彰されることなんてないので嬉しかったです」

「(ホームレースの)広島ロードレースと広島クリテリムは、応援がすごくて走り甲斐があります。クリテリウムでは運よく『勝ち逃げ』※1に乗って、チームも僕が逃げの中で有利にレースを進められるよう集団でコントロール※2してくれたんですけど、最後は遅れちゃったので悔しかったです」

※1…メイン集団から飛び出して先行する「逃げ(逃げ集団)」のうち、メイン集団に吸収されることなく、その中から優勝者が出る逃げ集団のこと

※2…メイン集団が逃げ集団との差を詰めて吸収し、勝負をふりだしに戻すのを回避するため、メイン集団の中でペースをコントロールする戦術のこと

▲広島クリテリウム レース映像

「今まででいちばんキツいレースだった」と自ら振り返った通り、苦しそうな表情で必死に喰らいついていた久保田選手の走りは胸アツ。時間の許す方はレース全編(1時間半弱)を、忙しい方は1:54:17頃からのラスト2周(6分程度)の激走だけでもぜひご覧あれ!

真価を問われる2年目のシーズンに向けて

自転車ロードレースは、チーム内で最も勝利に近い選手を「エース」とし、その選手を勝たせるためにチームメイトが一丸となって「アシスト」するチーム競技だ。現在、競技歴約3年半、プロ入りわずか1年の久保田にはアシストの役割が求められている。

「エースになるくらい実力があればナニクソと思うのかもしれませんが、今は(実力が)足りていないので、仕方ないと思っています。『集団を牽引して』とか『いま逃げろ』とか指示されたときに言われた通りのことを遂行できると達成感がありますし、それでエースがいい順位に入ってくれたり、表彰台で『チームで動いてくれて…』とか言っていたりすると、良かったなぁと思います」

2022年シーズンは、自身はDNF(Did Not Finish=途中棄権)ながら、レース途中で集団を牽引し、エース・阿曽の3位入賞を後押しした「コーユーレンティアオートポリスロードレース」(8月6日、大分県日田市/121.5km)が印象に残っているという。

長いものだと1回のレースで200km以上走ることもあり、レース時間が5時間を超えることもある自転車ロードレース。戦略や駆け引きが勝負の鍵を握るため、いくらエース選手が強くても、アシストがしっかり仕事できなければ勝つことは難しい。それだけに、久保田にかかる期待も大きいといえる。

「今までヴィクトワール広島はチャレンジャーのような立場でしたが、今年はメンバーも変わって、日本一を争うようなメンバー構成だと思います。チームも日本一を目標に掲げているので、アシストとしてということにはなると思いますが、(チームの目標達成に)貢献できるように頑張りたいです。

僕自身は、粘りが特長だと思っています。先頭集団から遅れたとしてもゴールまで行こうとは、いつも思っています」

トレードマークのメガネと優しい笑顔、上りが得意な脚質から、人気マンガ「弱虫ペダル」の主人公・小野田坂道になぞらえて“リアル坂道くん”と呼ばれることもある久保田。3月19日(日)は、広島空港に隣接する中央森林公園(広島県三原市)で開催される西日本チャレンジサイクルロードレースに出場予定だ。観戦は無料で、レース本番や準備の邪魔にならなければ選手とのコミュニケーションも可能なので、ぜひ現地で生観戦&応援を。

大阪育ちながら「お好み焼きは断然広島派です。というか府中焼きが大好きです!」という久保田悠介選手。自身2年目となるシーズン開幕を目前に控える2月28日、26歳の誕生日を迎えました。

※3月19日夕方には、広島市内のホテルにてチーム主催の「お披露目会」が開催される。外国人選手も含めた全選手が参加し、2023シーズン新体制のお披露目をするほかファンやスポンサーとの交流を楽しむ会で、コロナ禍を経て4年ぶりの開催となる。選手たちと身近に触れ合えるチャンスをお見逃しなく

SPタイムズのヴィクトワール広島担当もお披露目会に参加が決定しました!
ファンの皆さんにお会いできること楽しみにしています。恥ずかしがり屋なので、お声をかけていただけますと幸いです(*’▽’*)

取材・執筆:きたのまゆみ
【プロフィール】
ライター、東京都荒川区出身
在京中はスポーツを主なフィールドに、雑誌、新聞やウェブなどで取材・記事執筆。
広島移住後は、約2年間にわたりヴィクトワール広島のチーム運営スタッフとして企画広報を担当。現在は、タウン情報誌やウェブを中心に活動中。

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