2023.7.25
7月8日(土)、広島県三原市・佐木島で「三菱地所JCLプロロードレースツアー2023 山陽建設佐木島ロードレース」(1周10.5km×10周=105km)が開催された。離島でJCLプロ自転車ロードレースが開催されるのは初めてのこと。アクセスが心配されたが、新幹線の駅から港までは歩いて5分程度。臨時便のフェリーも運行され、難なく会場にたどりつくことができた。
三原駅で新幹線を降りると、改札周辺には大会ののぼりとポスターがずらり。構内の売店には歓迎幕が掲げられ、港へ続くマリンロードは、すべての街灯に大会バナーがはためいていた。各商店の店先にはポスターが掲示されており、街は歓迎ムード一色だ。
三原港からは、ホビーレースやオープニングセレモニーなど各種イベントの時間に合わせた臨時フェリーが運行。40分ほど心地よい潮風に吹かれて向田港に着くと、メイン会場はすぐ目の前だった。
メイン会場には、地元飲食店を中心にバラエティ豊富なブースが並んだ。島民による鷺浦町内会のテントでは、島内産の柑橘で作られているジャム、島内で取れた野菜を使った弁当、手作りのしそジュースなども売られていた。
レース前、ステージではホームDJ・渡部裕之さんとチームのPRユニット「アビガール」の西本海那さんによる応援練習が行われた。レース展開に合わせて選択される3種類の曲に合わせて、ハリセンを叩きながら選手の名前などをコールする。応援練習には、会場を訪れていた三原市・岡田吉弘市長も参加した。
2022年度「自転車を活用したスポーツ振興に関する協定」を締結したことから、三原市と三原商工会議所、広島経済同友会三原支部は官民一体となってヴィクトワール広島の活動をサポート。がっちりタッグを組んで、佐木島ロードレース開催に向けて準備してきた。
この日を「楽しみにしていました」という岡田市長はレースのスターターという大役を終え、「緊張しました」と安堵の表情を見せた。
ホームストレート付近では、渡部さんと、解説役を務める宮﨑健太選手によるトークを聞きながら観戦が楽しめるようになっていた。
プロ選手の平均時速は40kmほどのため(今大会は優勝選手が44.7km/h)、1周10.5kmある今回のコースは、選手たちが通り過ぎたあと次に戻ってくるのは15〜16分後ということになる。その間も、プロ選手ならではの戦略や駆け引きに関する話、チームメイトの素顔など貴重な情報が満載のトークで、観客は飽きることなくワクワクしながら時間を過ごすことができた。
チーム練習や、レース当日のイベント「朝活サイクリング」で島内を走った宮﨑選手によると、今大会のコースは「そんなに上りはないけれど、斜度1〜2%で海風もあるので、けっこう脚にくる。意外とキツいコースです」とのこと。さらに宮﨑選手は「(気温・湿度が高いため)体を冷やしたり、水分と電解質を積極的に摂取したりすることが大事」と出場選手たちを気遣った。
悲願とも言える「地元初V」を狙うヴィクトワール広島は、ベンジャミン・ダイボール、カーター・ベトルス、レオネル・キンテロの外国人3選手と、阿曽圭佑キャプテン、久保田悠介選手、柴田雅之選手の6名でレースに臨んだ。
激しい主導権争いが続く中、ヴィクトワール広島の選手たちは序盤から積極的に攻め続けた。その戦いぶりは宮﨑選手が「ヴィクトワール、アツいですね!」と感嘆するほど。観客のハリセンを打つ音にも力がこもった。
中盤6周目になると集団は2つに分かれ、第一集団と第二集団の差はどんどん広がる。
「4:6くらいに分かれていますね。エース級の選手が前(第一集団)にいるチームが多いので、後ろ(第二集団)は行かないと思います。タイム差は開きやすくなるので、第一集団で勝負が決まる確率は高いです。ヴィクトワールは、第一集団に外国人選手3人が入っています」(宮崎解説)
8周目の途中から雨が降り出すと、レースの雲行きも、怪しくなり始める。
「降り始めがいちばん滑る」という宮﨑選手の解説通り、雨足が急に強まり出した9周目、第一集団から抜け出そうとしたカーター・ベトルス選手がタイヤを滑らせて落車。その後も落車が相次ぎ、ヴィクトワール広島は6名中4名が落車して、うち3名はDNF(Do/Did Not Finish=途中棄権)となった。
それでも、先頭集団にはキンテロ選手とダイボール選手がいる。
最終周、S/Fラインを通過したキンテロ選手を見て、選手寮で暮らしを共にする宮﨑選手は「表情がぜんぜん余裕そうだった」とコメント。翌週に控えるベネズエラ選手権に向けて調整がうまくいっており「かなり仕上がっている」というエピソードが宮﨑選手から紹介されると、ゴールを待つ観客の期待と興奮はさらに高まった。
向田港前の最終コーナーを曲がり、残り1km弱のホームストレートに飛び込んできたのは、10名ほどの集団だった。ひとかたまりのまま全力でもがきながらゴールに駆け込んできた選手たちの中で、右手を高々と掲げたのは、オレンジ色のジャージを身にまとったレオネル・キンテロ選手。熾烈なスプリント勝負を制して、コンマ数秒の僅差でヴィクトワール広島に劇的な地元初Vをもたらした。
ゴールの直後、体をのけぞらせて喜びを爆発させた中山卓士監督は、スポンサーやサポーターから次々にハイタッチやハグによる祝福を受けた。
「もしかしたら最後のスプリントでうまく噛み合わない可能性もあった中、力を証明して見事に勝ってくれたレオに感謝したいです。(栃木での開幕戦で)カーターが優勝した時も皆さん喜んでくれましたが、ホームで、勝った瞬間にみんなが両手を挙げて喜んでくれているのは、嬉しかったですね。初めての感覚でした」
発足9年目、チームは地元での優勝に挑戦し続け、応援に駆けつけるファンの数は年々着実に増えてきていた。
今大会がこれまでと違っていたのは、自転車ロードレースファンだけでなく、地元住民がたくさん観戦に訪れていたことだ。犬の散歩がてら沿道に腰を下ろしてレースを見守る人もいれば、果実収穫用コンテナを椅子がわりにして自宅ポーチで観戦する人も。
お揃いのヴィクトワールTシャツを着た大集団もいた。広島経済同友会広島支部による観戦ツアー参加の皆さんだ。
自身も初めて自転車ロードレースを見たという支部長・原邦高さんはレース後、興奮気味に感想を語ってくれた。
「スピード感とかパワーがすごかった。しかも地元で開催されるということで、ワクワク感がとんでもない1日でした。しかも地元のチームが優勝して、最高です。もっと広く知ってもらって、地元の人、とくに子供たちにもっと見てもらいたい。来年は、もっとたくさんの人に声をかけたいと思います」
歓喜と興奮の中で幕を閉じた佐木島ロードレース。翌日の広島クリテリウムは、比較的短い距離の周回レースであるクリテリウムを得意とする中田拓也選手が出場予定で、2日連続の地元勝利が期待されたが、荒天による警報と道路の冠水のため中止となってしまった。
目標に掲げた広島大会での2連勝は、来年以降へおあずけとなった。地元一丸の三原・佐木島ロードレースと、アクセス抜群、広島県内唯一の市街地自転車ロードレース・広島クリテリウムの更なる盛り上がりが楽しみだ。
もちろん、広島大会のあともシーズンは続く。
「今年はジャパンカップも初めて出ますし、後半戦も各レースを1つ1つ着実に上位に入って、力を証明したいです」(中山監督談)
次戦は、9月8日からのUCI国際レース「ツール・ド・北海道」だ。ヴィクトワール広島の、さらなる快進撃に期待しよう。
☆佐木島ロードレース結果(JCL公式サイト)
https://jcleague.jp/wp/wp-content/uploads/2023/07/6fa912d3da61c7006411c9d3d290863f.pdf
☆ヴィクトワール広島公式WEBサイト
https://victoirehiroshima.com
取材・執筆:きたのまゆみ
【プロフィール】
ライター、東京都荒川区出身
在京中はスポーツを主なフィールドに、雑誌、新聞やウェブなどで取材・記事執筆。
広島移住後は、約2年間にわたりヴィクトワール広島のチーム運営スタッフとして企画広報を担当。現在は、タウン情報誌やウェブを中心に活動中。